こんにちは。ブログ「家庭の経営」を運営しているあくあ(3級FP技能士)です。
私は今年56歳。定年まで残り4年となり、「年金をいつからもらうか」という問題が、いよいよ他人事ではなくなってきました。
年金は原則65歳からの受給ですが、希望すれば 60歳から前倒しでもらうこと(繰上げ受給) ができます。
「早くもらえるなら、もらった方が得なんじゃないか?」
そう思う方も多いはずです。世間では「繰上げは損」と言われがちですが、先に結論をお伝えすると、私は60歳からの繰上げ受給を選ぶ方針 です。
ただし、それは減額や落とし穴を知らずに決めたわけではありません。仕組みとデメリットを理解したうえで、わが家の生活設計に合うと判断したからです。
この記事では、繰上げ受給の仕組みと注意点を整理しながら、56歳の私が「なぜ繰上げを選ぶのか」をお話しします。
⚠️ 本記事について(免責事項) 本記事は、公的年金制度に関する一般的な情報と、著者個人の考え方をまとめたものです。年金額や減額率、各種制度は生年月日や加入状況によって異なり、制度自体も改正されることがあります。実際の判断にあたっては、日本年金機構の最新情報や「ねんきん定期便」「ねんきんネット」でご自身の年金額を必ず確認し、必要に応じて年金事務所や独立系FPなどの専門家にご相談ください。
繰上げ受給とは~年金を60歳から前倒しでもらえる制度
老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は、原則として 65歳から 受け取りが始まります。
ただし、希望すれば 60歳から65歳になるまでの間、1ヶ月単位で受給開始を前倒しできます。これが 繰上げ受給 です。
- 65歳より早くもらい始められる
- その代わり、年金額が減額される
- 減額された金額が 一生涯続く
ポイントは3つ目です。「65歳になったら本来の金額に戻る」わけではありません。一度決めた減額率は、生涯変わらず、原則として取り消しもできません。
ここが、繰上げ受給を考えるうえで、いちばん重く受け止めるべきところです。
減額率の仕組み~1ヶ月早めるごとに0.4%減る
繰上げ受給の減額率は、次の式で計算されます。
減額率 = 0.4% × 繰り上げた月数(65歳になる月の前月まで)
例えば、60歳0ヶ月で繰り上げると、60ヶ月分の前倒しになるので、
0.4% × 60ヶ月 = 24%の減額
となります。つまり、本来の年金額の 76% を一生受け取ることになります。
※この0.4%という減額率は、昭和37年4月2日以降に生まれた方 に適用されます。昭和37年4月1日以前生まれの方は、1ヶ月あたり0.5%(最大30%)ですのでご注意ください。
受給開始年齢ごとの減額率と年金月額の例
本来の年金額が 月15万円 の場合で、受給開始年齢ごとの金額を見てみましょう。
| 受給開始年齢 | 減額率 | 受け取れる月額 |
|---|---|---|
| 60歳0ヶ月 | 24.0% | 約114,000円 |
| 61歳0ヶ月 | 19.2% | 約121,200円 |
| 62歳0ヶ月 | 14.4% | 約128,400円 |
| 63歳0ヶ月 | 9.6% | 約135,600円 |
| 64歳0ヶ月 | 4.8% | 約142,800円 |
| 65歳0ヶ月 | 0% | 150,000円 |
60歳から受け取ると、月に 約36,000円 の差。これが一生続くわけですから、決して小さな数字ではありません。
損益分岐点はおよそ80~81歳
繰上げ受給を考えるとき、多くの方が気になるのが「何歳まで生きると、65歳からもらった方が得になるのか」という損益分岐点です。
60歳0ヶ月(24%減額)で繰り上げた場合、81歳前後 で受取総額が逆転するというのが一般的な目安です。
- 81歳より前に亡くなれば → 繰上げの方が受取総額は多い
- 81歳を超えて長生きすれば → 65歳受給の方が受取総額は多い
厚生労働省の統計では、日本人の平均寿命は男性が81歳台、女性が87歳台です。つまり、平均的に生きた場合、繰上げは「やや損」になる可能性が高い 計算になります。
「健康寿命」で考えると、見え方が変わる
ただ、私がもうひとつ大事だと考えているのが 健康寿命 です。
健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のこと。厚生労働省の発表(2022年)では、次のとおりです。
| 平均寿命 | 健康寿命 | 差(制限のある期間) | |
|---|---|---|---|
| 男性 | 約81歳 | 約72.6歳 | 約8.5年 |
| 女性 | 約87歳 | 約75.5歳 | 約11.6年 |
つまり、平均的には 男性で73歳前後、女性で75歳前後から、健康上の制限がある生活が始まる ということです。
ここで、先ほどの損益分岐点「81歳」を思い出してください。81歳は、男性の健康寿命を8年以上も過ぎた年齢 です。
「81歳まで生きれば65歳受給の方が総額で得」——それは事実です。でも、その頃には、旅行や趣味に自由にお金を使える体ではなくなっている可能性が高い。「受取総額の損得」と「使えるお金の価値」は別物 なのです。
繰上げで60〜64歳に受け取るお金は、健康寿命の真っただ中、いちばん自由に動ける時期のお金です。この視点を持つと、損益分岐点の意味がずいぶん違って見えてきます。
損益分岐点だけで判断するのは危険
まとめると、私はこの損益分岐点だけで判断するのは危険だと思っています。理由は次の2つです。
- 自分が何歳まで生きるか、何歳まで健康でいられるかは、誰にもわからない
- お金には「もらう時期」による価値の違いがある(健康寿命の範囲内で使えるお金と、80代のお金は、同じ1万円でも意味が違います)
損益分岐点は「参考情報のひとつ」であって、「答え」ではありません。
見落としがちなデメリット~減額以外にもある落とし穴
繰上げ受給のデメリットは、実は「減額」だけではありません。ここが本当に見落とされがちなところです。
障害年金が請求できなくなる場合がある
繰上げ受給をすると、その後に病気やケガで障害状態になっても、障害年金を請求できなくなるケース があります。
60歳以降は、健康リスクが確実に高まる年代です。「早くもらえる」というメリットの裏で、万一のときのセーフティネットを手放す可能性がある。これは重大なポイントです。
国民年金の任意加入・追納ができなくなる
60歳以降、国民年金に任意加入して年金額を増やしたり、過去の未納分を追納したりする方法がありますが、繰上げ受給をするとこれらが できなくなります。
「年金額を増やす選択肢」を、自ら閉じてしまうことになります。
65歳までは遺族年金と両方もらえない
配偶者を亡くして遺族年金を受け取れる場合でも、65歳になるまでは、繰り上げた老齢年金と遺族年金の どちらか一方を選択 することになります(併給できません)。
失業給付とは同時にもらえない
意外と知られていないのがこれです。60〜64歳の間、雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)を受けている期間は、繰り上げた老齢厚生年金が支給停止 になります。両方を同時に受け取ることはできません。
退職後に失業給付を受ける予定がある方は、「失業給付をもらい終えてから繰上げ請求する」など、受け取る順番の設計が大切になります。私自身もここは退職プランに組み込んで考えています。
働きながらだと年金がカットされる場合がある
60歳以降も厚生年金に加入して働く場合、給料と年金の合計が一定額を超えると、年金の一部または全部が 支給停止 になることがあります(在職老齢年金という仕組みです)。
「繰上げでもらい始めたのに、働いているせいでカットされた」となると、減額だけが残る、もったいない結果になりかねません。基準となる金額は改正されることがあるので、最新の情報は日本年金機構のサイトでご確認ください。
繰上げ受給が「向いている人」は誰か~資産の有無で整理する
よく「繰上げは損だからやめておけ」と言われますが、私はそんなに単純な話ではないと考えています。ポイントは、長生きリスクに備える資産があるかどうか です。
繰上げを「安心して選べる」人
- ある程度の 貯蓄・資産があり、長生きした場合も資産でカバーできる 人
- 60歳以降、厚生年金に加入して働く予定がない 人(在職カットの心配がない)
- 60代前半の元気なうちにお金を受け取る価値を重視する人
資産がある人は、減額のデメリットを資産で吸収できます。さらに、繰上げで年金をもらう分だけ 資産の取り崩しペースを緩められる というメリットもあります。「資産があるから繰上げ不要」ではなく、「資産があるからこそ、繰上げという選択肢を安全に取れる」わけです。
繰上げが「必要になる」人
- 60歳以降の収入が少なく、生活費が現実に足りない 人
この場合、繰上げは生活を守る現実的な手段です。ただし、長生きしたときに資産も年金も細くなる、いちばん苦しいパターンに陥るリスクがあることは、認識しておく必要があります。
特に「慎重になるべき」人
- 資産が薄く、家系的に長寿の可能性が高い 人
- 60歳以降も 厚生年金に加入して働き続ける 人(在職カット+減額のダブルパンチ)
- 障害年金などのセーフティネットを残しておきたい人
大切なのは、「得か損か」の損益分岐点だけでなく、「自分の資産状況と生活設計の中で、繰上げがどう機能するか」 という視点です。
わが家の考え方~60歳から繰上げ受給を選ぶ理由
最後に、当事者である私自身のプランをお話しします。
冒頭でお伝えしたとおり、わが家の方針は 「60歳で退職し、60歳から繰上げ受給する」 です。再雇用で65歳まで働き続ける道もありますが、私はそれを選ばないつもりです。
理由は4つあります。
1つ目は、60歳以降、厚生年金に加入して働く予定がないから。 繰上げ受給の大きなデメリットである「在職老齢年金によるカット」は、厚生年金に加入して働く場合の話です。会社勤めを終えるわが家には、このカットの心配がありません。趣味の延長で続ける小さな副業は、この仕組みの対象外です。
2つ目は、「健康寿命」の範囲内でお金を受け取りたいから。 男性の健康寿命は約72.6歳。損益分岐点の81歳は、その健康寿命を8年以上過ぎた先の話です。総額で多少「損」になっても、体が自由に動く60代のうちに受け取って、旅行や趣味、家族との時間に使う。私はそのお金の価値を重視したいと考えています。
3つ目は、長生きリスクに備える資産を、この28年で作ってきたから。 わが家は、普通のサラリーマン家庭ながら、28年の家計経営でゼロから 金融資産1,000万円 を作ってきました。繰上げで年金が減っても生活が破綻しないだけの備えがあるからこそ、安心してこの選択ができます。逆に言えば、資産の裏付けなしに「早くもらえるから」だけで選んでいたら、危ない橋になっていたと思います。年金を早くもらう分、この資産の取り崩しペースを緩められる ことも大きなメリットです。
4つ目は、社会保険の設計とセットで考えているから。 退職後は、条件を満たせば妻の社会保険の扶養に入り、健康保険料の負担を抑える設計を検討しています。扶養に入るには年金や副業を含めた収入の条件(60歳以上は年180万円未満など)があるため、繰上げ後の年金額と副業収入のバランスを試算したうえでのプランです。なお、扶養の認定基準は加入している健康保険によって異なるため、事前の確認が欠かせません。
ただし、これはあくまで わが家の場合 です。
再雇用で働き続ける方には繰上げは不向きですし、資産状況や健康状態、家族構成によって最適解は変わります。「繰上げ=損」でも「繰上げ=得」でもありません。大事なのは、仕組みとデメリットを理解し、失業給付や社会保険まで含めた「退職後の全体設計」の中で判断することです。
まとめ:繰上げ受給は「損か得か」ではなく「設計するもの」
最後に、この記事の要点を振り返ります。
- 繰上げ受給は、60歳から年金を前倒しでもらえる制度
- 減額率は 1ヶ月あたり0.4%、60歳開始なら 24%減(昭和37年4月2日以降生まれの場合)
- 減額は 一生続き、取り消しできない
- 損益分岐点は 81歳前後 が目安。ただし損得だけで決めるのは危険
- 健康寿命は男性約72.6歳・女性約75.5歳。損益分岐点より先に「自由に使える期間」が終わる可能性を考える
- 減額以外にも、障害年金・任意加入・遺族年金・失業給付・在職老齢年金 など見落としがちな落とし穴がある
- 長生きに備える 資産がある人ほど、繰上げという選択肢を安全に取れる
- 判断の軸は「得か損か」ではなく、退職後の働き方・資産・社会保険まで含めた全体設計
私自身は、28年の家計経営で作ってきた備えを土台に、60歳からの繰上げ受給を選びます。「繰上げは損」という一般論に流されるのではなく、自分の家庭の設計図の中で答えを出す。それが、定年まで残り4年の私の、現時点での結論です。
この記事が、同じように「年金をいつからもらうか」を考え始めた方のヒントになれば嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
⚠️ 改めて:本記事の免責について 本記事は公的年金制度に関する一般的な情報と著者個人の考え方をまとめたものであり、特定の受給方法を推奨するものではありません。減額率や在職老齢年金の基準額などの制度は改正されることがあります。実際の判断は、日本年金機構の最新情報とご自身の「ねんきん定期便」「ねんきんネット」を必ず確認のうえ、必要に応じて年金事務所・独立系FPなどの専門家にご相談ください。


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